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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)2490号 判決

原告 芝崎正

右訴訟代理人弁護士 小山香

同 水野正晴

被告 株式会社サン・パナスデベロップメント

右代表者代表取締役 西尾寿正

被告 株式会社サン・パナス

右代表者代表取締役 西尾寿正

被告 西尾寿正

被告 北谷俊雄

右訴訟代理人弁護士 庭山正一郎

同 中島史郎

被告 飯野茂夫

被告 上原鹿蔵

被告 佐藤国作

主文

一、被告株式会社サン・パナスデベロップメント、同株式会社サン・パナスは、原告に対し、各自金一億三〇〇七万六三九四円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二、被告西尾寿正、同北谷俊雄は、原告に対し、各自金一億〇三五〇万円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三、被告西尾寿正、同北谷俊雄に対するその余の請求及び被告飯野茂夫、同上原鹿蔵、同佐藤国作に対する請求をいずれも棄却する。

四、訴訟費用は、被告飯野茂夫、同上原鹿蔵、同佐藤国作に生じた費用は原告の負担とし、その余は被告株式会社サン・パナスデベロップメント、同株式会社サン・パナス、同西尾寿正、同北谷俊雄の負担とする。

五、この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告株式会社サン・パナスデベロップメント(以下「被告デベロップメント」という。)に対する請求

主文第一項と同旨

2. 被告株式会社サン・パナス(以下「被告サン・パナス」という。)に対する請求

(主位的請求)

主文第一項と同旨

(予備的請求)

被告サン・パナスは、原告に対し、金一億二六二一万〇五五八円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3. 被告西尾寿正(以下「被告西尾」という。)に対する請求

(主位的請求)

被告西尾は、原告に対し、金一億三〇〇七万六三九四円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

被告西尾は、原告に対し、金六五〇三万八一九七円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4. 被告北谷俊雄(以下「被告北谷」という。)、同飯野茂雄(以下「被告飯野」という。)、同上原鹿蔵(以下「被告上原」という。)及び同佐藤国作(以下「被告佐藤」という。)に対する請求

被告北谷、同飯野、同上原及び同佐藤は、原告に対し、それぞれ金一億三〇〇七万六三九四円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5. 訴訟費用は被告らの負担とする。

6. 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

(被告デベロップメント、同北谷、同飯野、同上原及び同佐藤の答弁)

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告サン・パナス及び同西尾の答弁)

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告デベロップメント関係

(主位的請求原因――委託を受けた保証人又は物上保証人の事後求償権)

(一)  被告デベロップメントは、ゴルフ場等の企画設計及び経営等を業務とする株式会社である。

(二)  昭和六一年三月二四日、訴外株式会社ファースト・クレジット(以下「ファースト・クレジット」という。)は、被告デベロップメントに対して、以下の約定のもとに、金一億二〇〇〇万円を貸し渡した(以下「本件消費貸借契約」という。)。

弁済方法 昭和六一年三月二四日に利息一一一万八四六五円を支払う。

昭和六一年四月から昭和六二年三月までは、毎月二七日に元金及び利息七九万二〇〇〇円を支払う。

昭和六二年四月から昭和八一年二月までは、毎月二七日に元金及び利息一一五万二四二二円を支払う。

昭和八一年三月二七日に、元金一一五万二四二四円を支払う。

遅延損害金 年一九・二パーセント

借主は、一回でも支払を遅滞した時は、何らの通知、催告なくして期限の利益を喪失する。この場合、借主は、貸主に対して、残元金の二パーセントを事務取扱手数料として支払う。

(三)  原告は、本件消費貸借契約が締結された際、被告デベロップメントの委託を受け、右契約に基づく同被告のファーストクレジットに対する債務を連帯して保証し、かつ、右債務を担保するため、自己所有の別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)に抵当権を設定した(以下「本件抵当権」という。)。

(四)  被告デベロップメントは、ファーストクレジットに対する本件消費貸借契約に基づく債務の平成二年九月二七日の弁済を怠り、期限の利益を喪失した。

(五)  平成四年五月一三日当時、本件消費貸借契約に基づく債務の残高は一億三〇〇七万六三九四円であったところ、原告はファーストクレジットに対し、同年七月三日までに右同額を弁済し、被告デベロップメントのファーストクレジットに対する右債務を右同額において消滅させた。

(六)  よって、原告は被告デベロップメントに対し、委託を受けた保証人又は物上保証人の事後求償権に基づき、一億三〇〇七万六三九四円及びこれに対する右弁済日の翌日である平成四年七月四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

(予備的請求原因――特約に基づく求償権)

(七)  仮に、右(三)が認められないとしても、原告と被告デベロップメントとの間において、昭和六一年五月三一日、同被告は、本件消費貸借契約に基づくファーストクレジットに対する債務が存続している場合にはその残高と同額の金員を原告に対し支払い、仮に原告がファーストクレジットに弁済することにより右債務を消滅させた場合には、原告に対し右弁済金額と同額の金員を支払う旨の合意(以下「本件特約」という。)が成立した。

すなわち、右特約を証する契約書(甲第一号証)の第二条には、「本件土地建物について、被告デベロップメントは本件抵当権を抹消する責任を負う」旨の記載があるが、これは、同被告が本件消費貸借契約に基づく債務の残高と同額の金員を原告に対し支払う旨を定めた趣旨と解すべきであり、また、原告の弁済により右債務が消滅した場合には、同被告は原告に対し、右弁済額と同額の金員を支払う義務を有する趣旨を定めたものというべきである。

(八)  よって、原告は被告デベロップメントに対し、右の本件特約に基づき(六)と同一の金員の支払を求める。

2. 被告サン・パナス関係

(一)  主位的請求原因(法人格否認の法理)

原告は、前記1のとおり被告デベロップメントに対して求償権を有しているところ、被告サン・パナスは、以下の理由により、被告デベロップメントと別個の法人格を有することを主張することは許されない。

(1) 被告サン・パナスは、昭和六二年三月三一日に設立されたが、その資本金二〇〇〇万円は、すべて被告デベロップメントが支出した。

(2) 被告サン・パナスの発行株式数は四〇〇株であり、そのうち二〇〇株は被告デベロップメントが、一六〇株は被告西尾が、残り四〇株は被告サン・パナスの従業員等が保有する。

(3) 両被告会社の代表取締役はいずれも被告西尾であり、被告サン・パナスの取締役七人中六人は被告デベロップメントの取締役も兼ねている。

(4) 両被告会社の目的はほぼ同一である。

(5) 被告サン・パナスは、設立直後から、被告デベロップメントの業務を引き継いで、これとほぼ同内容の営業を行っている。

(6) 被告サン・パナス設立のころ、被告デベロップメントは事実上事務所を被告サン・パナスの事務所の所在地に移し、以後両者は同一の場所において営業している。

(7) 被告デベロップメントは、債権者の追求を免れるために、被告サン・パナスの設立直後に、これに対し一億二六二一万〇五五八円を貸し付けた。

(8) 両被告会社の各従業員は、同一のデザインの名刺を使用している。

(9) 両被告会社は、いずれも正規の株主総会や取締役会等を開催しておらず、全面的に被告西尾の意向に従って経営されていた。

(10) 被告デベロップメントがリース契約をして借り受けた物品が被告サン・パナスの事務所に備えつけられている。

(11) 被告サン・パナスの従業員が被告デベロップメントに対し立替払金の請求をするなど、両被告会社間には業務の混同が認められる。

以上により、原告は被告サン・パナスに対し、法人格否認の法理に基づき、請求原因1と同一の金員の支払を求める。

(二)  予備的請求原因(債権者代位権による代位)

(1)(被保全債権)

原告は、被告デベロップメントに対し、請求原因1記載のとおりの求償債権を有している。

(2) 被告デベロップメントは、現在無資力の状態である。

(3)(代位されるべき債権)

昭和六二年四月二三日ころ、被告デベロップメントは、被告サン・パナスに対し、一億二六二一万〇五五八円を、期限の定めなく貸し渡した。

そして原告は、平成三年三月一二日の本件口頭弁論期日において、被告デベロップメントに代位して、被告サン・パナスに対し、右貸金債務の支払を請求した。

よって、原告は被告サン・パナスに対し、債権者代位権に基づき、一億二六二一万〇五五八円及びこれに対する右貸金債務の弁済期の後である平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3. 被告北谷、同飯野、同上原及び同佐藤に対する請求原因及び被告西尾に対する主位的請求の請求原因(本件特約に基づく連帯保証人の求償権)

原告は、請求原因1(七)のとおり、被告デベロップメントに対し、本件特約に基づく求償権を有するところ、被告西尾、同北谷は昭和六一年五月三一日、被告飯野、同上原及び同佐藤は同年六月末ころ、それぞれ原告との間で、被告デベロップメントの原告に対する本件特約に基づく債務を同被告と連帯して保証する旨を合意した。

よって、原告は、被告西尾、同北谷、同飯野、同上原及び同佐藤に対し、右特約による連帯保証契約に基づき、それぞれ請求原因1と同一の金員の支払を求める。

4. 被告西尾に対する予備的請求の請求原因(共同保証人間の求償権)

(一)  原告は、請求原因1の主位的請求原因記載のとおりの求償権を有するところ、被告西尾は原告とともに、昭和六一年三月二四日、ファーストクレジットに対し、被告デベロップメントの本件消費貸借契約に基づく債務を、被告デベロップメントの委託を受けて保証した。

(二)  被告デベロップメントは無資力である。

よって、原告は、被告西尾に対し、共同保証人間の求償権に基づき、右の求償権の二分の一に相当する六五〇三万八一九七円及びこれに対する平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 被告デベロップメント、同サン・パナス、同西尾の認否及び主張

(一)  請求原因1(一)、(二)の事実は認める。

同(三)の事実中、原告が連帯保証及び本件抵当権の設定をしたことは認めるが、被告デベロップメントの委託に基づくことは否認する。

同(七)は否認する。同被告と原告間で作成された甲第一号証の契約は、原告主張のように同被告が原告に対し債務を負担する旨の合意を定めたものではない。当時、原告、被告デベロップメント、同北谷、同飯野、同上原及び同佐藤は、鳩山及び新江戸崎のゴルフクラブ開発の共同事業をする旨約し、被告デベロップメントが本件消費貸借契約により借り受けた前記金員の中から右開発のための費用として使用された額について、右各共同事業者の負担すべき部分に相当する金額を、右共同事業とりまとめ作業の完了ないしその不能となった時点において相互に精算確定し、これを被告デベロップメントが右各人に請求できる旨の合意がなされたものであった。もっとも、被告デベロップメントもまた自己の負担すべき部分の金員を調達する義務を負っていたが、これは原告ら他の共同事業者が右の義務を履行するのと同時履行の関係に立つものであった。

また、仮に、右甲第一号証により、被告デベロップメントが原告に対し何らかの債務を負担しているとしても、同被告と原告間の右契約は、被告デベロップメントを営業者、同被告を除くその余の右各被告ら及び原告を構成員とする匿名組合契約に基づく出資金返還請求権を定めたものというべきであり、右の匿名組合契約は遅くとも昭和六二年七月末日までには前記ゴルフ場開発が不能となって終了したものとみられるところ、右共同事業遂行の結果、原告がファーストクレジットに担保提供することによって調達した出資金はすべて失われて残額が存在しなくなったため、商法五四一条但書により、原告の右出資価額の残額の返還請求権はなくなったというべきである。

(二)  被告サン・パナスの法人格否認の主張について、請求原因2(一)の事実中、被告サン・パナスが昭和六二年三月三一日に設立されたこと及び同(2)、(3)、(8)の事実は認めるが、その余は否認ないし争う。同2(二)は否認ないし争う。

被告デベロップメントは、ゴルフ場等の設計開発や保険の代理店業務等を行っており、被告サン・パナスは不動産に関する業務を主に行っており、両者の業務内容は異なっているうえ、両会社は、別個の帳簿による経理処理を行い、それぞれ別々に公租公課を支払っているものであって、別個独立の法人である。

(三)  被告西尾に関する請求原因3、4の事実は否認する。

2. 被告北谷の認否

請求原因1の事実は不知。同3の事実は否認する。

仮に被告北谷が何らかの負担責任を負うとしても、同被告の負担額は、ファーストクレジットからの前記借入金一億二〇〇〇万円の六分の一に当たる二〇〇〇万円が最大限度である。また、これに対する利息については被告西尾が負担すべきである。

3. 被告飯野、同上原及び同佐藤の認否

請求原因1の事実は不知。同3の事実は否認する。

三、被告デベロップメント、同サン・パナス及び同西尾の抗弁

1. (負担部分の控除――請求原因1(七)に対し)

前記甲第一号証の契約書を作成した当時、前記のとおり、原告、被告デベロップメント、同北谷、同飯野、同上原及び同佐藤は鳩山ゴルフクラブを、原告、被告西尾及び同北谷は新江戸崎ゴルフクラブを、それぞれ共同で開発する事業をすることを約した。そして右の共同事業をするに当たって、原告と被告デベロップメントは、原告が被告デベロップメントに請求できる金額は、右各ゴルフクラブに関する原告を含む右各事業者の負担金を控除したものとするとの合意を取り結んでいた。

すなわち、原告と右各被告は、鳩山ゴルフクラブの開発にかかる経費を右六名で平等に負担する旨を合意しており、また、原告、被告デベロップメント及び同北谷は、新江戸崎ゴルフクラブの開発にかかる経費を右三名で平等に負担する旨を合意していた。そこで、右負担金を控除した結果として原告が被告デベロップメントに請求できる金額は、別紙「計算書」のとおり、二二〇六万九〇五二円である。

2. (相殺)

原告、被告デベロップメント、同北谷、同飯野、同上原及び同佐藤は、右1のとおりの共同事業を行い、その経費は六名ないし三名で平等に負担する旨を合意し、右合意に基づき原告が被告デベロップメントに請求できる金額は、右に計算したとおり二二〇六万九〇五二円となるところ、これはまた同時に原告が負担すべき金額でもある、したがって、原告は被告デベロップメントに対し右同額の債務を負担している。

被告デベロップメントは、原告に対し、平成三年二月五日の本件口頭弁論期日において、右請求権をもって、原告の本訴請求債権とその対等額において相殺する旨の意思表示をした。

四、抗弁に対する認否

いずれも争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

第一、被告デベロップメントに対する請求について

一、1.請求原因1(一)、(二)の事実及び同(三)の事実中、昭和六一年三月二四日、原告が、被告デベロップメントのファーストクレジットに対する債務を連帯して保証し、かつ、右債務を担保するため、本件抵当権を設定したことは、同被告において争わないところ、同被告との間で成立に争いのない甲第二一号証によれば、本件消費貸借契約と右連帯保証及び抵当権設定は一通の契約書によりなされたことが認められ、これによれば、右連帯保証及び抵当権設定にあたり同被告の委託があったことを認めることができ、他に反証はない。

2. 〈証拠〉によれば、請求原因1(四)、(五)の事実が認められる。

3. 以上によれば、原告は被告デベロップメントに対し、物上保証人の事後求償権として、一億三〇〇七万六三九四円及びこれに対する右求償をした日の翌日である平成四年七月四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求めることができるというべきである。

二、そこで次に、同被告の抗弁につき判断するに、その判断の前提として、原告が同被告に対する予備的請求原因(請求原因1(七))で主張する本件特約が締結されるに至った事情を認定する必要があるので、まずこの点について判断する。

1. 〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  被告飯野は丸和産業株式会社(以下「丸和産業」という。)の代表取締役、同上原は同社の専務取締役、同佐藤は同社の従業員として、丸和産業の名において、埼玉県比企郡鳩山町に建設予定の仮称「鳩山ゴルフクラブ」の開発についての地権者の同意の取りつけ、地上げ、官公庁の許認可の取得等の準備作業を行っていたが、当時会社をやめて無職であった原告は、被告上原から誘いを受けて、もと公務員である被告北谷の紹介で知り合った同西尾を誘った結果、昭和六〇年末ころ、原告、被告西尾、同北谷、同飯野、同上原、同佐藤(以下「原告ら六名」という。)は、共同で右の開発を行う事業を開始した。また、これと同じころ、原告、被告西尾、同北谷は、共同で、右とは別の茨城県稲敷郡江戸崎町に建設予定の仮称「新江戸崎ゴルフクラブ」の開発も行うようになった。

なお、被告西尾は被告デベロップメントを経営しており、同会社の名において右各作業に当たっていた。

(二)  同年一二月二七日、原告は、被告西尾の要請により、右各ゴルフクラブの開発資金に充てるため、本件土地建物に根抵当権を設定して豊基興業株式会社(以下「豊基興業」という。)から七五〇〇万円を借り受け、同月三〇日、被告北谷を連帯保証人として、右金員を被告デベロップメントに貸し付けた。そして、右金員の中から、諸経費に充てるため、原告、被告西尾、同北谷に各二〇〇万円(うち一〇〇万円は鳩山ゴルフクラブの分、残り一〇〇万円は新江戸崎ゴルフクラブの分とされた。)、被告上原に一〇〇万円、丸和産業ないし被告上原及び同佐藤に合わせて一三五〇万円が、それぞれ交付された。

(三)  しかし、豊基興業からの借入れは利息が高いこともあって借換えをすることとなり、昭和六一年三月二四日、原告が物上保証人及び連帯保証人となる代わりに、被告デベロップメントが債務者となって、ファースト・クレジットとの間で本件消費貸借契約が締結され、これにより同被告が借り受けた一億二〇〇〇万円の中から右豊基興業に対する借受金が弁済された。

(四)  同年四月八日、丸和産業はエスティティ開発株式会社(以下「エスティティ」という。)との間で、鳩山ゴルフクラブについて、エスティティが開発事業の主体となり、丸和産業がそのために開発とりまとめ作業を行い、エスティティは右作業に対する資金及び報酬の提供をすること等を内容とする契約を締結し、原告ら六名は、その契約書に「取り纏め協力人」としてそれぞれ記名押印した(乙第一号証)。

(五)  しかし、原告は、本件消費貸借契約に基づく借受金が弁済されずに本件抵当権が実行されるおそれを感じたことから、被告西尾に対し右借受金の支払の保証を求めた。そこで、原告、被告西尾、同北谷が話し合い、同年五月三一日、これに関する金銭支払の合意をし(本件特約)、これを証する契約書(甲第一号証、以下「本件契約書」という。)を作成して、原告が署名押印を、被告デベロップメントが記名押印をしたほか、被告西尾、同北谷が被告デベロップメントの連帯保証人として署名押印した。右契約書に記載された条項は、概ね以下のとおりであった。

第一条 被告デベロップメントは、昭和六一年三月二四日にファーストクレジットより借入れした一億二〇〇〇万円については、昭和六二年一二月二〇日までに、原告又はファーストクレジットに対し、一億二〇〇〇万円から鳩山ゴルフクラブに関する原告、被告上原、同飯野、同佐藤以上四名分の負担金及び新江戸崎ゴルフクラブに関する原告の負担金を差し引いた金額を支払う。

第二条 本件土地建物について、被告デベロップメントは昭和六二年一二月二〇日までに本件抵当権を抹消する責任を負う。

(六)  同年六、七月ころ、原告は被告上原、同飯野、同佐藤のところに右書面を持ち込み、右三名は、このような合意が原告、被告デベロップメント、同西尾、同北谷らの間で成立したことを確認し、かつ被告飯野、同上原、同佐藤に流れた前記金員の額を明らかにするために、被告北谷の署名押印の後に被告上原、同佐藤がそれぞれ署名押印し、かつ、丸和産業の記名押印及び被告飯野の押印をし、更に、原告がその下に「負担金(元金)¥一三五〇万円」と付記した。

(七)  しかしその後、昭和六二年中には、原告ら六名の前記二つのゴルフクラブの開発とりまとめ作業はいずれも挫折し、被告デベロップメントは本件消費貸借契約に基づく借入金の弁済ができなくなったため、平成四年五月一三日、原告はファースト・クレジットに対し、残債務全額一億三〇〇七万六三九四円を支払い、本件土地建物に対する同会社の抵当権を消滅させた。

(八)  原告ら六名は、鳩山ゴルフクラブの開発とりまとめ作業が完成し(四)記載の契約によりエスティティから報酬金が支払われた暁には、そこから経費を控除した上、これを各自に分配することをそれぞれに思い描いてはいたが、その配分割合について相互に話し合ったことはなかった。また、原告、被告西尾、同北谷は、新江戸崎ゴルフクラブについてもその作業の完成によって利益を得ることももくろんでいたが、その配分割合についても相互に話し合ったことがなかった。さらに、右六名は、いずれも右各作業が失敗した場合について殆ど想定しておらず、その場合の経費の分担のあり方についても、全く話し合いを行わなかった。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2. 右認定事実によると、原告は被告デベロップメントに対し、本件特約によっても求償権を行使することができることとなり、同特約を定めた本件契約書には、同被告の支払うべき金額は「一億二〇〇〇万円から鳩山ゴルフクラブに関する原告、被告上原、同飯野、同佐藤以上四名分の負担金及び新江戸崎ゴルフクラブに関する原告の負担金を差し引いた金額」である旨が明記されており、原告自身もその本人尋問において右記載に沿うような供述をしているのであるから、右の特約に基づき同被告が原告に支払うべき金額は、一億二〇〇〇万円を限度として、そこから右負担金を控除した額に限られるものと認められる。

しかしながら、前認定の事実、ことに本件契約書の右の記載の趣旨からすれば、本件特約は、原告が物上保証人としての事後求償権を行使する場合にはその適用がないものとして締結された趣旨であると認められる。

なお、この点に関し、被告デベロップメントは、本件契約書は、鳩山及び新江戸崎のゴルフクラブ開発の費用として使用された額について共同開発者の負担すべき部分に相当する金額を被告デベロップメントが右各人に請求できる旨を合意したものであり、そうでなくとも、被告デベロップメントを営業者、原告らを構成員とする匿名組合契約に基づく出資金返還請求権を定めたものであって、すでに残額の返還請求権は消滅した旨主張するが、本件契約書第一条は明らかに原告を債権者、被告デベロップメントを債務者として金銭の支払を定めているし、同被告と原告との間に匿名組合契約が締結されたことを認めるに足りる証拠もないから、同被告の右主張は採用することができない。

3. そこで、以上の事実を前提として同被告の抗弁につき判断するに、被告デベロップメントは、原告、被告デベロップメント、同北谷、同飯野、同上原、同佐藤が鳩山ゴルフクラブの開発にかかる経費を右六名で平等に負担する旨、また、原告、被告デベロップメント及び同北谷が新江戸崎ゴルフクラブの開発にかかる経費を右三名で平等に負担する旨をそれぞれ合意しており、右合意に基づき、原告が被告デベロップメントに請求できる金額は二二〇六万九〇五二円にすぎないこと、並びに同被告は原告に対し右と同金額の債権を有していることをそれぞれ主張する。しかし、右認定事実によれば、原告ら六名は、鳩山及び新江戸崎各ゴルフクラブの開発とりまとめ作業を共同で行ったが、右開発作業の結果としての利益の分配や経費の負担のあり方については明確な話し合いがなされなかったことが認められるのであり、右作業にかかる経費を平等に負担する旨の合意があったことを認めるに足りる証拠はないから、右平等負担の合意の存在を前提とする被告デベロップメントの抗弁はいずれも理由がない。

三、以上によれば、被告デベロップメントに対する原告の本訴請求は理由がある。

第二、被告サン・パナスに対する請求について

一、まず、被告サン・パナスに対する主位的請求原因(法人格否認の主張)について判断する。

1. 被告サン・パナスが昭和六二年三月三一日に設立されたこと、同被告の発行株式数は四〇〇株であり、そのうち二〇〇株は被告デベロップメントが、一六〇株は被告西尾が、残り四〇株は被告サン・パナスの従業員等が保有していること、並びに被告デベロップメント及び被告サン・パナスの代表取締役がいずれも被告西尾であり、被告サン・パナスの取締役七人中六人は被告デベロップメントの取締役も兼ねていることはいずれも被告サン・パナスにおいて争わない。

2. 右争いのない事実に、〈証拠〉を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一)  被告デベロップメント及び同サン・パナスは、いずれも被告西尾が二、三名の従業員を使用して実質上一人で経営している会社で、株主総会や取締役会等はほとんど開催されたことはないこと、

(二)  被告デベロップメントの目的は、商業登記簿上、

(1) ゴルフ場、スキー場、プールの企画、設計並びに経営

(2) 一般土木建築工事の設計、施工、監理

(3) 不動産の売買・仲介・斡旋

(4) 経営コンサルタント業

(5) 建築資材及び住宅設備機器販売並びに輸出入

(6) 医療機器の販売並びに輸出入及びリース業

(7) 土木建築工事に伴う機械器具のリース業

(8) 損害保険の代理店及び生命保険の募集に関する業務

(9) 上記各号に附帯する一切の業務

と定められているのに対し、被告サン・パナスの目的は、被告デベロップメントの右(1)(2)(4)(6)(7)(8)(9)と全く同じ目的が掲げられ、右(3)(5)の代わりに、これとほぼ同様の「不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介」及び「建築資材の販売並びに輸出入」の目的が掲げられているにすぎないこと、

(三)  平成元年ころには、被告デベロップメントの東京都渋谷区東一丁目四番一号の本店所在地の事務所は機能しなくなり、同被告の業務は東京都港区六本木三丁目三番七号の被告サン・パナスの事務所において行われるようになったこと、

(四)  平成元年当時、被告デベロップメントの名義でリースされ、同被告がリース料を支払っている事務機器が、被告サン・パナスの事務所において使用されていたこと、

(五)  平成元年当時、被告デベロップメント及び同サン・パナスの従業員は、いずれも右各会社の両方の業務を行っており、それにより生じた立替金の支払を双方の会社から受け取っていたこと、

(六)  被告デベロップメントは、被告サン・パナスが高知県の土地を購入する代金に当てるために、同被告に対し、昭和六二年四月二三日付けで一億二六二一万〇五五八円を貸し付けたが、右貸付にあたり、契約書等が作成されたり、弁済期や利息の定めがなされたことは窺われず、右貸金が弁済された形跡もないこと、また、同年には、被告デベロップメントが被告サン・パナスに対し、事務委託料として七五〇〇万円を支払っていること、

(七)  昭和六二年一〇月三〇日、被告サン・パナスは、鳩山ゴルフクラブや新江戸崎ゴルフクラブの開発作業等に使用するために被告デベロップメントや丸和産業がエスティティから借り入れていた一億六〇〇〇万円につき重畳的に債務引受けをしたこと、

以上のとおり認められる。

3. 右認定事実によれば、被告デベロップメントと同サン・パナスは、いずれも実質上被告西尾の個人企業であって、株主総会や取締役会もほとんど開催されたことがなく、また、会社の目的もほぼ同一で、資本及び役員構成において相互に密接な関係があり、事務所や従業員などの物的人的基盤の混同、多額の貸金の放置や多額の事務委託料の支払といった財産関係の混同が認められ、さらに、被告デベロップメントが係わったプロジェクトに関して被告サン・パナスが債務引受けをするといった業務内容の混同も見受けられるのであって、他面において、前掲各証拠によると、被告デベロップメントと被告サン・パナスは、別個の帳簿による経理処理を行い、別個に公租公課を支払っていること及び被告デベロップメントは、ゴルフ場等の設計開発や保険の代理店業務等を行っており、被告サン・パナスは不動産に関する業務を主に行っていることが認められるが、このような事情を考慮しても、被告デベロップメントと同サン・パナスの法人格は実質上同一のものと認められるから、被告サン・パナスは、同デベロップメントと別個の法人格を有することを信義則上主張できないものというべきである。

二、しかして、被告デベロップメントが原告に対し一億三〇〇七万六三九四円の求償債務を支払うべき義務があることは、前記第一に認定したとおりであるから、被告サン・パナスも被告デベロップメントと同様に原告に対し、右と同金額の支払義務を負うというべきである(被告サン・パナスの抗弁が認められないことも被告デベロップメントの抗弁につき判断したところと同一である。)。

第三、被告西尾、同北谷に対する請求について

一、原告が被告デベロップメントに対し本件特約に基づく請求権があること、並びに物上保証人としての事後求償権の行使による場合とは別に、右の特約に従って原告が同被告に請求しうる金額は一億二〇〇〇万円を限度とすることはいずれも前記第一の二に認定したとおりである。

そして、右認定の事実からすれば、被告西尾、同北谷は、本件特約締結の日に、同特約に基づく被告デベロップメントの負担すべき債務について連帯保証をしたことが認められる。

二、右の点に関し、被告北谷は、ファーストクレジットからの借入金の六分の一に当たる金額がその負担の最大限度である旨主張し、同被告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述部分もあるが、右は、本件契約書の前記記載内容、並びに原告、被告飯野各本人尋問の結果、さらに前記第一の二3に説示した事情に照らし、信用することができない。

また、被告西尾の主張及び抗弁がいずれも採用できないことも、被告デベロップメントに関し右第一の二2、3に説示したとおりであり、したがって、原告ら六名が経費を平等に負担する旨の合意があったとの主張事実が認められないことも同様である。

しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件契約書の前記第一条に規定する負担金については、前記第一の二1(二)に認定したとおり、被告デベロップメントが前記借受金の中から交付した原告宛の二〇〇万円、被告上原宛の一〇〇万円、丸和産業宛の一三五〇万円(これは被告飯野及び同佐藤の負担金とみなされた。)の合計一六五〇万円が右負担金に該当するが、不確定要素である金利や諸経費はこれに含まれないものとして、右契約書の作成に応じたものであることが認められ、ほかには右の負担金の意味を具体的に明らかにする証拠がない(この点に関する被告西尾、同北谷の各本人尋問の供述部分は、いずれも具体性に欠け信用することができない。)ことからすると、本件特約に基づいて被告デベロップメントが原告に対して負担すべき金額は、前記一億二〇〇〇万円から右の一六五〇万円を差し引いた金額であると認めることができるから、被告西尾の前記主張(被告北谷の主張も実質的に同様であると考えられる。)については、前記平等負担の合意については認められないものの、右の限度で理由があるものということができる。

三、したがって、被告西尾及び同北谷は、本件特約に基づき、原告に対し一億二〇〇〇万円から右の一六五〇万円を控除した一億〇三五〇万円の範囲で連帯保証をしたものと認めるのが相当であり、原告の同被告らに対する本訴請求は、右の限度で理由がある。

第四、被告飯野、同上原、同佐藤に対する請求について

原告は、被告飯野、同上原、同佐藤についても、本件特約に基づく被告デベロップメントの債務につき連帯保証した旨主張するが、前記第一の二1(六)で認定したとおり、本件契約書に被告上原、同佐藤が署名押印し、被告飯野がこれに押印した趣旨は、本件特約が原告と被告デベロップメント、同西尾、同北谷の間で成立したことを確認し、かつ被告飯野、同上原、同佐藤に流れた金員の額(合計一四五〇万円)を明らかにするためであって、本件特約に基づき被告デベロップメントが原告に対して負う前記債務の連帯保証をするために同被告らの右各押印をさせたものではなく、このことは、原告自身が本人尋問において認めているところである。

したがって、原告の右主張事実は認められないから、被告飯野、同上原、同佐藤に対する請求はいずれも理由がない。

第五、結論

以上によれば、原告の被告デベロップメント及び同サン・パナスに対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、被告西尾及び同北谷に対する請求は、いずれも一億〇三五〇万円及びこれに対する本件特約に基づく求償権が発生した後であると認められる平成四年七月四日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告飯野、同上原、同佐藤に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大和陽一郎 裁判官 山田俊雄 内田博久)

〈以下省略〉

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